2009年5月21日木曜日

SpringによるHyperic買収の意味

オープンソースのモニタリングシステムとして著名なHypericがSpringSorceに買収(5/7)された。ネットワークモニタリングの世界ではNagiosと並んで老舗のHypericの買収とは、Springにとってどんな意味があるのか探ってみた。発表では、HypericのフラッグシップであるHyperic HQの持つ、ハードウェアとソフトウェアのモニタリング技術を適用し、エンタープライズ・クラスのJavaアプリケーション・ライフサイクル管理を目指すという。Hyperic HQはSNMP(Simple Network Management Protocol)を用いてネットワークやサーバー機器をモニターするが、他のネットワークモニタリングと異なり、OSやミドルウェアなどのソフトウェア・モニタリングも得意としている。とりわけ、クラウドと相性の良いオープンソース分野は殆どの網羅されているといって良いだろう。SpringはRod Johnson 氏の自書『Expert One on One J2EE Design and Development』 と共にリリースしたJavaアプリケーションのフレームワークで、この世界では老舗である。加えてJ2EE対応ということで他のJavaフレームワークに比べ、エンタープライズを意識した構造だと言って良い。買収されたHyperic HQ の構造はServerとAgentからなるが、このServerはJBossなどで動くJ2EEのアプリケーションとして提供され、また、AgentもJavaで書かれており、Springとの親和性は高い。そしてServer/Agentの構造によって、各種のプロトコルによるモニタリングよりも強力な力を発揮する。
この話も始めは2007年12月にさかのぼる。
当時のアナウンスでは、お互いの親和性とオープンソースの利点を生かして、共同提案を実施。その効果が徐々に現れて、今回の買収に繋がった。利用するユーザー企業からみれば、Springによるアプリケーション開発(Build)から実行(Run)、そしてHyperic HQによるモニタリング管理(Manage)までを任せることが出来る。近い将来2つのプロダクト間の親和性がより高くなれば、ユーザーにとって便利この上ない。また、Hypericが昨年夏から始めたAmazon向けCloud Monitoringなどの強化も今後は期待される。

2009年5月7日木曜日

DMTFによるクラウド運用の標準化

分散されたITシステムの標準的な管理を推進するDistributed Management Task Force(DMTF)は、これまでの活動の延長線上で、クラウドコンピューティング環境の管理や相互運用性の標準化を「Open Cloud Standards Incubator」として取り組むと発表(4/28)した。クラウドの進展はAmazonを筆頭とするパブリックなサービスから、エンタープライズ向けのプライベート、さらにそれらの混用となるハイブリッドに進み、複数のクラウドを管理する必要に迫られ始めている。DMTFはこれまで分散環境におけるITシステム管理の標準化を目指し、多くの実績がある。これらの技術の上に、複数クラウドの標準的な管理仕様を制定することが、今回のプロジェクトの狙いである。
ここで基本となる技術はOVF(Open Virtualization Format)。
OVFは仮想化マシンの可搬性を高めるためにパッケージングの方法を標準化したものだ。この仕様を使用して仮想マシンをパッケージングすれば、OVFをサポートする他の仮想プラットフォーム上で動かすことが出来る。


OVFは、2007年秋、DMTFのプロジェクトVirtualization Management Initiativeに参加していたDell、HP、IBM、Microsoft、VMware、XenSource(現Citrix)によって共同提案、承認されたものである。このOVFを利用すれば、Package→Distribute→Installまでの流れを統一することが可能だ。技術的にはこれまでのパッケージングツールを使い、生成される各種の情報やファイルをOVFに準拠させ、TAR形式に纏め上げる。このOVFよって、異なるプラットフォーム間で共通化された情報を可搬させるわけである。DMTFではまた、同団体が規定したCIM(Common Information Model)ベースの仮想サーバー管理標準プロファイルも規定しており、今回のOpen Cloud Standards Incubatorプロジェクトでは、このようなプロファイルとOVFを利用し、これまでの適用範囲を運用管理(Manage)まで広げる計画である。

さて、今回のDMTFの発表には、今やCitrixとなったXenとの係わりがある。
OVFが提案された2007年、それは提案メンバーの1社であったXenSourceにとっては激動の年だった。オープンソースのXenはLinuxとの親和性が高いことで知られ、XenSourceの願いは、Linuxの標準となることだった。しかしながら、Linus Torvalds氏は、Linuxカーネルの仮想化技術にKVM(Kernel-based Virtual Machine)を採用、XenとLinuxとの統合は無くなった。そして失意のXenSourceは2007年夏、シンクライアントのSaver-Based Computingからの脱皮を目指すCitrixに買収されることが決まった。

Xenへの期待はこうしてCitrixに移り、同社はXenと同社のICA(Integrated Communication Architecture)などの技術を組み合わせたXenSaverやXenDesktopなどを開発出荷した。買収からたった半年の2008年2月のことである。同年7月、CitrixはXenから引き継いだプロジェクトについてもCitrixのSilicon Valley事業所(Santa Clara)から発表した。Project Kensho(見性)である。
このオープンソースのKenshoこそが、今回、DMTFから発表されたOpen Cloud Standards Incubatorの核となるものとみられる。XenがOVFベースで取り組んでいた相互運用のプロジェクトをCitrixが引き継いだものだ。Kenshoでは、XenServerとVMware ESX、さらにMicrosoftのWindows Server 2008 Hyper-Vの3つをXMLのラッパーで包んでOVFとして扱い、各社のハイパーバイザーに依存しない仮想マシンイメージを作ることが出来る。これによって、異なるクラウド間でのワークロード・シェアやアプリケーションのプロビジョニングなども可能となり、マルチハイパーバイザーの相互運用管理が見えてくる。

2009年5月5日火曜日

GoolgeのJavaサポートに思う

Google App EngineにJavaが登場(4/7)して少し時間がたった。
Googleのクラウド市場参入は昨年4月7日、最初のサポート言語はPythonだった。
それから丁度1年たった同じ日にJavaのサポートを発表したことになる。当時も今も、クラウドでは完全にAmazonに先を越されたGoogleにはやや焦りがある。AmazonはEC2とS3で完全なPaaSの世界を切り開き、ビジネスとしても成功してきた。

これに対しGoogleは、High Speed Computer利用を模索していたIBMと2007年10月、大規模インターネットシステムの課題を探る大学向けInitiativeを手掛けた。
このInitiativeにはWashingtonやCarnegie Mellon、Stanford、UC Berkeley、MITなどが参加し、仮想化のXenや分散処理インフラのAppche Hadoop、さらにGoogle File Systemなどを適用したものであった。Googleから見ればAmazonはInternetの専門家ではなく、競合として視界の中にはなかった気がする。それがあれよあれよという間にデベロッパーの支持をうけ、新しい文化として定着し始めた。この流れがまさかここまで大きな影響を持つとは考えていなかったに違いない。

昨年4月のApp Engineの発表は、デベロッパー向けのCampfireOne。
発表はあのPython CreatorのGuido van Rossum氏だ。ここシリコンバレーではPythonの人気は高い。Rossum氏は2005年からGoogleで働いているし、Java'VMの実装であるJythonのデベロッパーFrank Wierzbicki氏はSunにいる。Rossum氏からの発表は迫力があった。ただAmazonを追っての発表としては、もっと画期的なものが欲しかった。Amazonは数種類のサイズの異なる仮想マシンと多様なOSを提供して完全なPaaSとなっているだけに、Googleなら別な何かがあるだろう。それが一般的な期待だった。発表された内容は、周知のようにインフラ部分はデベロッパーから見えず、Webアプリケーションを作成するPythonと簡易データベースとなるDataStoreだ。しかし、冷静な話、これではAmazonのEC2でPythonでWebアプリケーションを開発するのとさしたる違いはない。App Engineならではの工夫が欲しかった。

そして、今回のJavaサポートである。
Javaによって、より多様なアプリケーションが開発できる。Javaには、GlassFishやOpenESBなど取り巻くソフトウェアが充実している。現に今回の発表では幾つか目に見える特徴があった。まず、Java 5と6に対応していること、Google Web Toolkitも1।6にあがってJava Runtimeと統合された。そしてEclipse IDEとの連携のためのGoogle Plugin for Eclipseもリリースされた。デベロッパーからみればJavaサポートはJVMで稼動するスクリプト言語のJRubyやGroovy、PHPなども実行できることを意味する。しかし、SunのChief Open Source OfficerのSimon Phipps氏は、今回のリリースはJavaクラスをフルサポートするのではなく、コアクラスを勝手に区分してサブセットを作り出し、Javaの理念(Once Write, Anywhere)に反すると不満を述べている。Google App EngineはJavaによってPythonから抜け出て一回り大きくなった。ただ、それでもAmazonのPaaSと比べて何処が魅力的なのか、Googleはその回答をデベロッパーに示さなくてはいけない。