2014年2月11日火曜日

IBMの進撃が始まるか、SoftLayer!     -IBM2-


前回、IBMの事業再編とクラウドシフトについて述べた。
今回はその核となるSoftLayerとは何かについて、考察しようと思う。
これまでに解ったことは、① SmartCloudサービスのIaaSにあたるSmartCloud Enterprise(SCE)は既にSoftLayerに移行が済んだということだ。これは1月末までに完了した。さらに上位のSCE+はSmartCloudのブランド下にあったが、これは別物で継続する。そして、更なるSoftLayerの普及に向け、 IaaSのSCEだけでなく、② SmartCloud Application Services(PaaS)やSmartCloud Solutions (SaaS)もSoftLayerに移行する。これらとは別に、③ WatsonのクラウドサービスもSoftLayer上での展開が予定されている。つまり、これからはSoftLayerがIBMクラウドの主役となる。

=SoftLayerの強みは何か=
SoftLayerの設立は2005年。
SoftLayerは世界140ヶ国に22,000顧客を持ち、地域的にみると米国とその他(米国外)がおおよそ50%づつ。データセンターは全世界に13ヶ所(Huston, Dallas, San Jose, Seattle, Washington DC, Singapore, Amsterdam, ... )、これらセンター間は20Gbpsの光ケーブルで接続されている。さらにアクセスポイントとなるNetwork POPを米国、ヨーロッパ、アジアに17ヶ所に設置(下図)。IBMはこのネットワークを既報のように世界40データセンターに拡大予定だ。彼らの強みは、大別すると2つ。まず、この高速専用ネットワーク回線がCDN(Content Delivery Network)や後述のDRとして機能すること。まるでAkamaiとAWSを結合したシステム作りである。もうひとつは、その上で稼動する拡張性の高いクラウドシステム(CloudLayer)だ。


SoftLayerのサービスには、①Dedicated, ②Managed,  ③CloudLayerの3つがある。これらは同じ統合環境(Integrated Environment)で稼動するので、組み合わせたシステム構築や総合的な運用が可能だ。ここで“Dedicated”とは、Dedicated Serverのこと。ユーザーはこのサービスを選択することで、SoftLayerのデータセンター内に専用のマシンを確保し、通常のVirtual ServerやPublic Cloudより安全で高速な実行環境を持つことが出来る。ただしSelf Managementだ。この場合、CPUはSingle(x1)からDual(x2)、Quad(x4)、Hex(x16)、そして必要ならNVIDIA Tesla GPUを搭載したHPCだって選択が可能だ。“Managed”は運用管理をSoftLayerが行うManaged Hostingのこと。

CloudLayer - On-Demand Cloud Computing 
同社が提供するCloud Computingのプラットフォームは“CloudLayer”。
セールスポイントは“Seamless & On-Demand Computing”である。仮想化のHypervisorはXenServerだ。大きな機能は3つ。ComputingとStorage、そしてCDN。このCloudLayerを用いれば、前述のDedicated ServerやVirtual Server、そしてCloud環境をシームレスに且つオンデマンドで統合して実行することができる。まさに理想の統合コンピューティング環境(Unified Computing Environment)だ。利用にあたってはPublic Cloud Instance、Private Cloud Instance、Bare Metal Cloudのオプションがある。ここでPublic CloudはMulti-Tenant、PrivateはSingle Tenant、Bare MetalはもちろんSingle Tenantだ。利用できるインスタンスはPublic Cloudで1 Core + 1GB RAM + 25GB Local Storageから8 Core + 8GB RAM + 100GB Local Storageまで、Privateでは8 Core + 32GB RAM + 100GB Local Storageまで、Bare Metalは最大16 Core - 64GB Ram - 250GB HDDまでの中から選択出来る。利用料金は月額か時間割りが選択が可能だ。

StorageLayer - Geographic Object Storage
CloudLayerの提供するストレージも凄い。基本となるのはOpenStack SwiftベースのObject DBだが、地理的配置が可能だ。このストレージは仮想マシンイメージやフォト、eメール、アーカイブなどの保存に優れ、①IndexとKey-Valueによる高速検索(Integrated Index & Search)、②北米/欧州/アジアを結ぶストレージクラスタリング(Global Storage Cluster)、③複数書き込みによる自己復旧(High Availability)、④ストレージ/CDNから直接コンテンツ配信)(Flexible Data Distribution)、⑤ポータル/モバイル/RESTful APIによるフルアクセス(Powerful Management Tool)などの特徴を持つ。ストレージデバイスには、CPUに付帯するLocalとSANがあり、FTPやNAS、iSCSIなどでアクセスする。さらに同社のネットワークとデータベースの地理的配置を組み合わせれば、DRのためのData Replicationも出来る(下図)。このSANシステムのオプションは1 Core + 1GB RAM + 100GB SAN Storageから8 Core + 16GB RAM + 100GB SAN Storageまで用意されている。


CloudLayer - CDN(Content Delivery Network)
SoftLayerが持つ世界展開の13データセンター(40センターに拡大予定)とそれらを繋ぐ専用高速回線(Private Network)は大きな戦略資産である。各データセンターには地域展開のSANストレージを配備した。これらを使ったCDNは容易に想像できるだろう。コンテンツを利用ユーザーのもっとも近いセンターのSANストレージに配置する。同社のネットワークはPrivate VLANとして機能するのでセキュリティーでも万全だ。コンテンツ処理は、“Origin Pull”と“PoP Pull”の2つ。“Origin Pull”とは、初回のコンテンツ要求時にホストサーバーから持ってこられ、その後、他ユーザーのアクセス用にネットワークに留まるもの。“PoP Pull”の場合は、予め本来の場所から目的とする場所にFTPなどでプリロードするものを言う。利用料は、Origin PullではGB単位の使用帯域料金となり、PoP Pullでは加えてストレージ料金がかかる。

進撃が始まるか!
以上見てきたように、SoftLayerは優れものである。
IBMは巨額を投じてきたSmartCloudを止め、SoftLayerに乗り換える。速報によると、IBMのクラウド売り上げは2013年度$4.4B(約4,400億円)、前年比69%のアップだ。昨年秋のIDC Reportでは、Cloud Professional Serviceのトップ企業に選ばれた。クラウドのSIでは世界一というわけである。IBMは今年から本格攻勢に入る。 しかし、クラウドビジネスが上手く軌道に乗れば、裏腹にハードウェア売り上げは下がる。これははっきりしている。先月、x86事業をLenovoに売却したが、WSJは更なる事業売却にも言及した。このバランスをどう舵取りをするのかCEO Ginni (Verginia) Rometty女史の手腕が問われる。目標は2015年までにクラウド売上を年間$7B(約7,000億円)に拡大することだ。巨人IBMでも開発が出来なかった斬新なクラウドをスタートアップが成し遂げ、巨人は時代の変遷に合わせて、外部の力を借りながら事業再編に命運を賭ける。クラウドとはそんな厳しい時代でもある。