2015年5月17日日曜日

2015年1Qクラウド決算分析 
    -Amazon堅調、Microsoftも好調、IBMはどうか
                            ・・・そしてRackspaceの売却再燃か-

=Amazon独走鮮明に!=
Synergy Resarchから1Qのクラウド各社の決算が出揃ったのを受け、分析結果が発表された。この分析はIaaSとPaaSに限られるが、Publicだけでなく、PrivateやHybridも含まれている。1Qの結果(下図-上)を見るとAmazonの売り上げが他の4社(Salesforce、Microsoft、IBM、Google)合計よりも大きく、その強さが際立った。過去と対比すればさらに良く解る。(下図-下)では、Iaas/Paasのクラウド市場は2013年から2014年にかけて世界で45%成長したが、 Amazonの成長率はそれより大きく49%だった。2014年2Q時の市場規模は推定で$3.7B(4,440億円-120円/㌦)、これを年間に引き延ばすと$13B(1兆5,600億円)となる。この時点でAmazonの売り上げは四半期当たり$1B(1,200億円)を超えているとみられた。そして、当ブログでも既報のように、Amazonは今年1Q決算からAWSの詳細なデータを公表した。それによると、昨年度売り上げは各期とも確かに$1Bを超えており、Synergy Resarchの調査が正確だったことが解る。そしてAWSの昨年度売り上げ合計は$4.6B(約5,500億円超)、営業利益は$660M(792億円)となった。今年度は$5B(6,000億円)が目標だ。

 
=価格競争の激化!=
もうひとつ参考になる報告がある。ITcadorからのものだ。このグラフは各期のデコボコを平準化するために四半期ローリングを施したもので解り易い。結果、Amazonの売り上げは順調に伸びているが、利益は昨年度初めを頂点に下降線をたどり、このところは横ばいであることが解る。この落ち込みは価格競争だった。その引き金を引いたのは、昨年3月、Googleによる30~85%という大幅な値引きアナウンスだ。これには直ぐにAmazonもMicrosoftも追従し、価格競争が激化した。


=IBMは売り上げ$7.7B、Microsoftは$6.3Bと主張!=
IBMやMicrosoftはどうなったか。
4月20日のIBMの発表によれば、IBM全体の売り上げは12%減であったが、クラウド売り上げは何と$7.7B(9,240億円)、前年比75%アップだという。 Amazonの昨年度売り上げが$4.6Bだからとんでもなく大きい。しかし、これにはソフト/ハード/サービスが含まれているので、このままの比較は禁物だ。IBMはまたカンファレンスコールの中でSoftLayerについては2桁の成長だったと触れただけだった。Microsoftの場合は年度決算が6月末なので発表された3Q Resultによると、(これも計上方法が異なるので直接の比較はできないが)SaaSに該当するOffice 356が1,240万人のサブスクライバ-となって35%増、さらにDynamics CRMが続き、そして本命のAzureを加えた総売り上げは$6.3B(7,560億円)となり、106%のアップだという。

=Rackspaceの売却再燃か!=
ところでRackspaceの売却問題が再燃しそうな気配である。
1Q決算があまり良くなかったことに加え、市場環境が変わってきたからだ。この問題については、昨年、ホワイトナイト探しとして何度か報告(報告1報告2 報告3)したが、9月17日以降は沙汰やみとなっていた。同社1Q決算は、売り上げ$480M(576億円)となり、前年同期比14.1%のアップ、利益は$28M(33.6億円)で前年同期比マイナス6.0%となった。この利益幅の減少は強いドルによる海外売り上げの為替が作用したもので、内容はそれほど酷いものではなかった

問題は今後の見通しである。決算発表後のカンファレンスコールで、同社幹部が2Qの利益予想は1.5-2.5%程度だと言及した。売り上げや利益が伸びても、為替の影響でドル建て決算が厳しくなる現象は、IBMやMicrosoftでも表れている。特にRackspaceのようなサービスのみを扱う中堅企業にとっては緩和策が見当たらず、頭の痛い問題だ。他方、クラウド市場に目を転じると、この半年で市場環境は大分変ってきた。独走するAWSのIPOを睨んだスピンオフが見え始め、Microsoftもエンタープライズ市場が好調だ。一方でHPがPublic Cloudから離脱( 記事1記事2 )するのではないかという噂が流れたり、IBM SoftLayerGoogle Cloud Platformは伸び悩んでいるように見える。業界筋は、これらの企業がRackspaceを傘下に置けば、彼らの立場は大きく変わるだろうという。勿論、彼らだけでなく、米キャリアの再挑戦があるかもしれないし、Microsoftにだって十分に可能性がある。Rackspaceにとっては、直ぐではないかも知れないが、これは独立独歩路線を変える最後のチャンスかもしれない。同社のマーケットキャップは、5月15日現在、$6.32B(7,584億円)だ。



2015年5月13日水曜日

コンテナーの世界!(1)
-Virtuozzo、Soralis、Linux(LXC)、そしてDocker- 

クラウドの世界にもコンテナー技術が押し寄せ始めている。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのDockerだ が、その技術を遡れば、IBMメインフレームのパーティションに始まる。ひとつのOSの上にパーティションを区切るこの方法は、Unix時代に適用構想が 持ち上がった。そしてUnix SystemⅤ Release 4(SVR4)とSun OSが統合されてSolarisとなり、2005年、Solaris 10でSolaris Containersが実装された。その後Linuxが登場、2008年、Linux 2.6.24でLXC(Linux Containers)として引き継がれ、2014年にはDocker 1.0 が登場した。

=コンテナーとは何か、そしてDocker!=
今さらながら、コンテナーとは何か整理してみようと思う。

◆ Parallels Virtuozzo Containers
VMwareやXenに代表される仮想化技術がハードウェアを隠ぺいして複数のOSを稼働させるのに対して、コンテナー技術はOSを隠ぺいして複数のアプリケーションを走らせる「OSレベルの仮想化(OS-Level Virtualization)」である。最初に実用化したのはSWsoft(現社名Parallels)という会社だ。2001年、OSにパッチを当てるVirtuozzo Containersをリリース。この版はLinuxとWindowsサーバ向けに独自技術のKSAL(Kernel Service Abstruct Layer)とVZFS(Virtuozzo File System)により、一つのOS上に完全にセキュアなコンテナー環境を作り出して、我々をあっと言わせた。この方式の最大の利点は処理効率にある。通常 の仮想化技術ではハードウェアが隠ぺいされているため、仮想化空間のGuest OSがIOドライバーをどう扱うかが課題となるが、VirtuozzoではHost OSのドライバーがそのまま使え、殆どネイティブモードと同じ処理速度が実現された。このため世界中のホスティング業者などが大量に導入。2005年にはそのオープンソース版OpenVZも登場したが、VMwareなどの普及で一進一退となった。2006年には状況打開のため、Virtuozzoの応用形として、Mac OS上でWindowsやLinuxなどクロスプラットフォームのアプリを実行するParallels Desktop for Macを発表した。Macの世界では今でもParallesが独走している。

◆ Sun Solaris Containers
次に、2005年に登場したのがSolaris Containersである。Parallesのコンテナー技術はOSにパッチの後付けタイプだ。しかし、SunのコンテナーはSolarisに組み込み方式で、区画されたパーティションをゾーンと呼ぶ。これらのゾーンは2つの種類がある。Solaris OS自身が乗るGlobal Zoneと個々のアプリが走るためにシステムリソースやセキュリティなどが遮蔽されたNon Global Zoneだ。このコンテナー技術はSunの他の製品稼働を保証し、扱い性も優れていた。

◆ Linux Containers(LXC) 
さらに時代が進んでLinux Containers(LXC)が登場した。LXCもSolaris Containersと類似の構造を採用し、Linuxのカーネルが乗るカーネルスペースとアプリなどのプロセスが走るコンテナー部ユーザスペースがある。カーネルスペースにはカーネルのみを搭載するので、コンテナー部に異なるLinuxディストリビューションを乗せることも論理的には可能だ。ユーザスペースのコンテナーにはプロセスが乗り、他のコンテナーと隔離される。このインターフェースとなるのがLXCだ。

 以上見てきたように、VirtuozzoやSoralis Container、LXCのコンテナー技術は同一OSをシェアする。それ故、個々のコンテナー内で使用するファイルやネットワーク、CPUなどリソース割り当てには工夫がいる。Virtuozzoでは各リソース毎のクォート管理機能を整備し、前述のVZFSは複数コンテナー間のファイルシェアリング機能も持つ。Solaris Containerでゾーン(コンテナー)が独立したOS環境を保持するための工夫が施され、ホスト名やIPアドレスなどを持つ仮想ネットワーク環境の整備、ファイルはGlobal Zone内に各Non Global Zoneの専用ディレクトリーが作られる。勿論、各ゾーン内でZFS(Zettabyte File System)の利用も可能だ。
 
◆ そしてDocker! 
LXCの構造はシンプルだ。ただその周りに十分な機能が揃っているわけではない 
Linuxだから勿論cgroupを使ったリソース制御は出来る。問題はどれほど容易かだ。Dockerの生い立ちはPaaSのdotCloudの内部プロジェクトとして始まった。そして2013年7月に独立。同年(2013年)3月リリースされたオープンソースの初期版ではLinuxカーネルの仮想化機能を利用する方法として、LXCがデフォルトとなり、他にLibvirtなど幾つかの方法があった。しかし0.9版になるとLXCがドロップし、代わって独自のドライバーのlibcontainerが標準となった(右下図参照)2014年6月、Docker 1.0が発表されると、Docker自身がコンテナー技術のプラットフォーム(Docker Engine)を目指し始めた。発表されたDocker Engineはクライアント/サーバー構成となり、各コンテナーを管理するのがDocker Servier、そのサーバーを操作するのはDocker Cliant。そして、このクライアントはRESTful APIによって多様なプログラムと連携が出来る。最新版は先月16日にリリースされたDocker 1.6だ。この版では先にリリースした分散環境向けのツール群が一部更新されて、Compose 1.2マルチコンテナのオーケストレーションツール)、Swarm 0.2コンテナーのクラスタリングツール)、Machine 0.2(クラウドやローカルマシンなどのプロビジョニング)、さらにコンテナー間認証アクセスはRegistry 2.0となった。

ワゴンに飛び乗れ!= 
今日、LinuxやWindowsの世界では仮想化技術がいやというほど普及して、汎用的に使われているが、それなりのオーバヘッドがある。ここが悩みだ。一方、コンテナー技術は同一OSのシェアなどの制限はあるがオーバーヘッドは大きく軽減される。コンテナーで先行していたParallelsが従来からWeb Hostingなどの業者に持てはやされたのは、こうした理由からである。そしてDocker人気がやってきた。考えてみればLinuxがこれだけ普及しているのだから、Linuxコンテナーが人気になるのは当り前である。元祖Linuxコンテナーの公式サイトLinuxContainers.orgにはLinuxカーネルのコンテナーインターフェースとなLXC、その上に構築されるユーザエクスペリエンスLXD、さらにリソース管理のCGManagerやファイル管理のLXCFSが揃いつつある。しかしながらその歩みはのろい。その間隙を突いたのがDockerだ。Dockerは独自技術はなく、オープンソースによるエコシステムと使い勝手の良さがウリであるだからこそ、このバンドワゴンに AmazonもMicrosoftも、GoogleやVMwareも飛び乗るのだろう。