2016年4月14日木曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(3)! 
            -ポートフォリオはどうなるか-

第1回ではDell-EMC合併の仕組みと資金調達について状況を整理した。第2回目はその鍵となるVMwareの対応について触れた。3回目となる今回は、両社の製品ポートフォリオを分析してみようと思う。

=製品の補完関係=
Dell-EMC両社の製品ポートフォリオを分析すると、そのカバー範囲の広さと相互補完の可能性が理解できる。勿論、両社の本業であるサーバーやストレージが互いに補完するのは当たり前だ。ただ、ストレージはDellも手掛けているし、サーバーではEMCのVCEなどがある。これらのハードウェア分野が新生Dell-EMCでも主力ビジネスとなるだろう。しかしそのビジネスを支えるのはソフトウェア群だ。これ無くしては新生Dell-EMCビジネスは回らない。両社がカバーするソフトウェア分野は大雑把に以下のようになる。これらのポートフォリオは両社がこれまでにM&Aによって手に入れたもので、各項目の後の()内は買収企業名、下線付きはDellの買収した企業を示す。また、傘下企業の一部は既に売却などの報道もあり、それらも参考にした。
  • Backup & Archiving (Legato, Data Domain, AppAssure, Quest)
  • Big Data and Analytics (Pivotal, StatSoft)
  • Cloud Platforms for the Enterprise (Virtustream, vCloud Air)
  • Enterprise Content Management (Documentum)
  • Security, Governance and Compliance (RSA/Archer, Silicium, Silver Tail, SecureWorks, SonicWall
  • Virtualization (VMware)
 Backup & Archiving
まずBackup & Archiving分野はどうなっているか。ここには、EMCが2003年に買収したNetWorkerを持つ老舗バックアップのLegato Systems($1.3B)、そして2009年に$2.4Bで買収したアーカイブや重複排除のData Domainがある。Dell側も同様に2012年にWindowsベースのバックアップをするAppAssureを買収し、同じ年にクロスプラットフォームのNetVaultを持つQuest Software($2.4B)も買収している。これまで両社は、これら製品を使用する既存ユーザーに自社ストレージを売り込んできた。つまり、これら企業の戦略的価値は、ソフト製品の機能だけでなく、自社ストレージ製品の潜在的な販売マーケットでもあった。今回の合併でストレージ製品が段階的に整理統合されるとすれば、当然、これらの企業の整理も必要となろう。昨年暮れのReuters記事によると、Dellは合併に伴う資金調達のため、上記のAppAssureとQuest Softwareの2社にe-MailセキュリティーのSonicWallを加え、さらにPerot Systemsを含めて合計$10Bで売却する予定だという。このシリーズの1回目で報告したように 、この中で最も価値の高いPerot Systemsは、Dellのデータサービス部門(他2社を含む)として、3月中、NTT Dataに$3.05B(約3,660億円)で売却されており、記事にあった残り3社(AppAssure、Quest、SonicWall)についても売却先を探している可能性は高い。

◆ Big Data and Analytics
次にビッグデータ分野はどうか。
EMC側には周知のように、PaaSとして一定程度浸透しているPivotalがある。同社はそのプラットフォームCloud Foundry上にPivotal Big Data Suiteを整備してきた。一方、Dell側には2014年に買収したStatSoftがあり、これまで同社のStatisticaを提案してきた。もしこのStatisticaが有用であれば、Pivotalの浸透度から見て、Pivotal上の既存スィートに統合展開されると思われる。
 
◆ Cloud Platforms for the Enterprise
さてクラウドはどうか。勿論、クラウドプラットフォームはVMwareが手掛けてきたものが継承される。問題はクラウドサービスだ。これは2回目で取り上げたようにEMC案が昨年末ペンディングとなっている。纏めておくと、この案はEMCとVMwareが出資してクラウド運営会社をVirtustreamに統合し、現在EMCが提供しているストレージなどのクラウドサービスやVirtustream自身のマネージドクラウドサービス、そしてVMwareの提供するvCloud Airを統合運用させて成長軌道に乗せようというものだ。この案がいつ動き出すかがポイントである。

◆ Enterprise Content Management
コンテンツマネージメントの分野はどうであろうか。Dell側にはこれといったものがないが、EMCには2003年に$1.7Bで買収したDocumentumがある。同社はかつては市場をけん引するリーダであった。しかしSharePointなどコラボタイプやDropBoxなど多様なクラウド製品の登場で、現在は苦しい立場だ。これをリフレッシュするかが気になるが、報じられているところでは、EMC自身も同社を売却の意向のようである。

◆ Security, Risk, Governance and Compliance
Security関連分野では2つのポイントがある。ひとつはEMC傘下で2006年に$2,1Bで買収したRSA Securityだ。同社はEMC傘下のArcher TechnologiesやSilicium Security、Silver Tail Systemsなどを統合して大きな力となっている。もうひとつはDellが2011年に買収したマネージドセキュリティーサービスのSecureWorksだ。この会社は資金調達の一環として近々IPOの予定である。

◆ Virtulization
の分野は言うまでもなくVMwareだ。参考のために同社がこれまで買収した主なものをあげると、SDNのNicira、SDSのVirsto、VDIのDesktone、そしてPivotal DevOpsの核となっているSpringSourceと傘下のRabbitMQ、Redi、GemStoneなどがある。 

=2つのグループか!= 
以上見てきたように、両社のソフトウェアポートフォリオは幅広い。
重複しているものは今回の合併で整理が進むだろう。また部分的にはIPOが可能だ。そして、残った企業は2つに分かれる。ひとつはこれまでのように新生Dell-EMCのハードウェアを売るために有効な企業(左)であり、もうひとつは存在感のある子会社として独立採算のビジネス領域を持つグループだ(右)。これにはPivotalやVMware、Virtustream、RSA該当し、相互連携しながら拡大を目指すことになろう。いずれにしても、新生Dell-EMCにとって、これらの企業、とりわけ2つ目のグループ(右)がどのような戦略のもので、どのように育って行くか楽しみである。

2016年4月10日日曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(2)!
              -鍵を握るVMware株-


第1回ではDell-EMC買収の仕組みと資金調達について状況を整理した。
その中で、VMware株価の重要性について触れた。昨年10月、DellによるEMCの買収発表後、EMCが81%を保有するVMwareの株価は大きく下げ、現在も低迷状態にある。発表時に$80強だった株価は、4月8日現在、$52だ。2月23日にはFTCの反トラストがクリアーされ、1回目の資金調達が始まった。このめどが立てば、合併の目鼻がつくかもしれない。問題はVMware株である。今回はこのVMware株について考えてみたい。

=両社が抱える特殊事情!=
今回の合併は何が大変なのだろうか。
通常の企業買収では、買収先の株式を評価し、1株当たりいくらと決めて現金で買い取る。手元資金が少なければ、自社株を買収先の株主に配布してバランスをとる。つまり、買収先のマーケットキャップ( 時価総額)がどの程度なのか、それによって資金を用意し、資金不足があれば差額を自社株で補てんする仕組みだ。しかし今回の買収は少し事情が違う。買収側のDellは、2003年のBuyoutによって、現在は未上場企業である。よって株式の補てんは出来ず、買収後はEMCも非上場となる予定だ。この2社間だけを考えると、EMCの時価総額は発表時点で$53.4B(約6兆4千億円)なので、これにプレミアをつければ良い。しかし、Dellから提示された買収額は$67B(約8兆円)だ。この金額は高すぎると思うかもしれない。そうではない。何故かというと、買収されるEMCには、81%を保有するVMwareという優良企業がある。つまり、EMCを買い取るということは、間接的にはVMwareも手に入れることになる。買収時のVMwareのマーケットキャップは$33.2B(約4兆円)。この部分をどう評価するかだ。2社のマーケットキャップの単純合計は$86.6B、EMCのVMware持ち分の8賭けをした計算では、約$80B(約9兆6千億円)となる。しかしDell側は資金的にこれ以上買い取り価格を引き上げられない。買収完了後、VMwareはそのまま上場企業として存続する。だからと言って無視し、EMCのマーケットキャップだけを対象とすることは出来ない。そこで考え出された方法が、EMCの株式に1株当たり$24.05を支払い、且つVMware業績連動株(Tracking Stock)を0.111株提供するという案である。
=VMwareの対応!=
報じられているによると、EMC分の1 株当たり$24.05は固定されている。買収発表時に提示されたEMC1株当たり$33.15という評価額は、この$24.05とVMwareの当時の株価$82に業績連動株の割り当て率0.111を賭けた$9.1を加えたものである。しかし現在、VMware株は大きく下げている。4月8日現在で$52.00だ。この値に割り当て率0.111を乗じると$5.77となり、このままでは合計で$29.82となってしまう。これではほとんどプレミアが無いに等しい。これが株価対策が急がれる理由である。この状況認識の上で、年初めCEOのPat Gelsinger氏は「2016年は大きくシナリオを変える年である」と宣言した。手始めに打った手は$55M~$65Mに相当する800人のリストラだ。これで利益を押し上げる。さらに役員人事にも手をつけた。これまでCFOだったJonathan Chadwick氏の交代を3月1日付で実施。後任CFOはZane Rowe氏が就任した。財務改善が狙いである。Rowe氏はこれまでEMCのCFOを長年務め、その実績を買われてVMwareに送り込まれてきた。EMCの発表では、EMCの後任CFOにDenis Cashman氏が内部昇格。これで組織構造の改革は形がついた。

=クラウド事業をどうするか!=
EMC/VMware連合にはもうひとつ悩みがある。
昨年5月、EMCが買収したVirtustreamの取扱いだ。この会社はクラウドプロバイダーとして、ユーザーに代わって運用管理を行うマネージドサービスが専門だ。買収動機ははっきりしている。VMwareの成長曲線を維持するためである。そして昨年10月12日、DellがEMCの買収を発表した直後の20日、このVirtustreamをEMCグループの総合的なクラウドビジネス企業とすると発表した。具体的にはEMCとVMwareが共同出資して新生Virtustreamとし、EMC独自のクラウドサービスやVirtustream自身のサービス、さらにVMwareが展開中のvCloud Air事業を統合する。しかしこの計画は昨年末、Dellの意向により撤退となった。巨額の買収資金の捻出を巡り、優良子会社であるVMwareの株価に悪影響を及ぼすからだという。ただ、この問題は解決したわけではない。仮想化ソフトが浸透した今、VMwareの判断は成長のためにはクラウドへの参入は欠かせなかった。そして始まったのがvCloud Airだ。しかしvCloud Airは普及が進まず、AWSやAzureに水を開けられている。この苦境を打開するために、今年2月にはIBMのSoftLayerと提携した。これは苦肉の策である。Virtustreamの買収金額は$1.2B(1,440億円)、EMCはこの対応に頭を痛めている。

=問題の本質は何か!=
こうしてEMCグループの戦略とDellの買収発表後の流れが交錯した。
果たしてこの買収は上手く行くだろうか。当面注力しなければならないのは、VMwareの株価を持ち直させことである。しかし真にVMwareの成長を考えるなら、要員カットや役員交代だけでは終わらない。仮想化市場は成熟し、投資家の目から見ると、ほとんどの企業に導入が進んだように見える。この状況を打開しなければならない。買収発表後、株価が大きく下げたのは、投資家の興味が薄れ始めたタイミングとたまたま重なったのか、それともDellによる買収が影響しているのか、それを解き明かす必要がある。これまでVMwareはEMCの保護のもと、順調に成長してきた。Joe Tucii氏率いるEMCは、人材的にも、戦略的にもVMwareを育てることに努力を惜しまなかった。今度はDellが、その役割を果たさなければならない。

2016年4月7日木曜日

Rackspaceに買収の噂!

Rackspaceに買収の噂が浮上した。
報じたのはCRNだ。周知のように、2010年RackspaceはNASAと共にOpenStackを始め、元祖としてOpenStackベースのクラウドサービスを提供するプロバイダーである。Amazonが市場をリードし、MicrosoftやGoogle、IBMが追撃する厳しい市場にあって、独自路線を貫いてきた。ただ同社は、既報1のように2年前の2014年5月、投資会社をハイヤーしてホワイトナイト探しをした経緯がある。その時は、良縁が見つからず、その後はサービスを武器に多面的な提携戦略を推進してきた。

CRNによると、今回の買収は大手テックジャイアントだという。
候補にあがっているのは、Amazon、Microsoft、HP、そしてIBMだ。このニュースが流れた3月31日以降、下図のように同社株は上昇に転じた。ただこれには4月6日に発表されたGoogleとRackspaceが参加するOpenPOWERの影響も重なっている。4月6日現在、$23.65だ。しかし同社株は、昨年の今頃は50㌦前後、5月13日には$43に急落し、その後もだらだらと下げ続け、今年の2月11日には$16.76まで下げた。こういう状況が今回の噂の背景になっている。

ただ、今回も条件が折り合わず事業をそのまま継続するということも大いにありうる。Rackspaceの業績は決して悪くない。売り上げも利益も順調に伸びている。2015年度は年間売上げが$2B(2,200億円…$1=¥110換算)に達し、年間成長率は14%となった。問題はそのスピードだ。トップを走るAWSは昨年度売り上げ$7.9B、年間成長率69%、売り上げはRackspaceの約4倍、成長率は5倍である。このままでは離されるばかりで、いずれ潰されてしまう。
まったくの私見だが、今回の買収があるとすれば、最有力はAmazonかMicrosoftのように思う。CRNの候補に挙がっていたHPとIBMは過去にもチャンスがあった。IBMが2013年にSoftLayを買収した際にはRackspaceも俎上に挙がっていたし、HPは2014年のRackspace主導によるホワイトナイト探しの際も候補だったが、HPはEucalyptusを買収した経緯がある。余程のことがなければこの2社の再挑戦はないだろう。残るはAmazonとMicrosoftだ。Rackspaceは既に両社と提携して、定評ある徹底的なサービスのFanatical Supportを提供している。Rackspaceからこのサービスを受けながらAWSやAzureを使うユーザーは確実に増えている。直接のサービス部門を持たないAmazonとMicrosoftにとって、Rackspaceは欲しいに違いない。もしAmazonが手に入れれば一段と飛躍し、市場はAmazonの天下となるのは確実だ。またMicrosoftが獲得すれば、完全にAWSは射程圏内となる。いずれにしても、ここ1-2週の問題である。

2016年4月1日金曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(1)!
             -買収の仕組みと資金調達-

今年の秋を目標としたDellとEMCの合併作業が一歩進んだ。
2月23日、連邦取引委員会FTC(US Federal Trade Commission)の審査が終了したからだ。しかし両社の合併作業はこれからが正念場である。当面の課題は膨大な買収資金の調達だ。次に新生Dell-EMCの資産をどのように生かして、どのように運営していくのだろうか。1回目は買収の仕組みと資金調達ついて見て行こう。

=巨額資金の調達は上手く行くのか=
昨年10月12日、Dellが$67B(約8兆円)という史上最大規模の金額でEMCを買収すると発表した。この買収でEMCの株主は、DellがEMCの評価を$33.15としたことで、当時の株価より高いメリットを受けとるはずであった。内訳はEMC株1株当たり$24.05の現金とEMCの子会社VMwareの業績連動株(Tracking Stock)の0.111株を加えたものである。当時のEMC株は約$24程度で、VMware株は$82位だった。しかし現在の株価は違う。EMC株は昨年9月29日の$23.13を底に、発表当日の10月12日には$28.35まで跳ね上がり、そしてゆるやかに下降し、1月27日は$23.90、その後は持ち直して3月31日現在$26.65である。問題なのはもう一方のVMware株だ。同社株は発表前の10月6日は$81.28、当日の12日は$82まで値をつけたが終値は$72.27と下がり、その後10月21日に$55.42、今年2月9日には$43.84と下がり続け、3月31日現在で$52.28と低調なままだ。

この状況はEMCの株主をやきもきさせる以上に買い手のDellにとっては大問題だ。というのは、Dellは優良会社のVMwareを武器に資金調達をしなければならないからである。この買収では、Dell側はMichael Dell氏の資金(MSD Capital)を使い、さらに投資会社Silver Lake Partnersと組んでいる。このSilver Lakeとは2013年、Carl Icahn氏などの投資家からDellが買収を仕掛けられた時、MBOで対抗して乗り切った相手である。しかしDellとVCが組んだとはいえ、$67Bは桁外れな金額だ。2月11日付のNew York Postによれば、Dell側は、現時点で$45B(5兆4千億円)の外部資金が必要だという。そのうち、まず最初の$10B(1兆²千億円)の調達が始まった。しかしJP Morgan筋の情報として、ハイテク株の不調、特にVMware株の低調から、すぐにはまとまらず10日間の延長となったらしい。これと並行して、米大統領候補にもなったRoss Perot氏からDellが買収したPerot Systems(現Dell Systems)の売却も動いていた。Dell側は当初$5B(6,000億円)を見込んでいたが、有力見込先だった仏Atosとの交渉は上手く行かず、その後インドのTataとNTT Dataのオークションとなり、結果は報道されたようにDell Service部門の3社(Dell Systems、Dell Technology & Solutions、Dell Services)をNTT Dataが買収金額$3.05B(約3,660億円)で競り落とした。この取引を見ると、Dellは資金調達にやっきである。なにしろ2009年に$3.9Bで買ったPerot Systemsにおまけを付けて、それらを約20%もディスカウントして売ったのだから。。。

=これからどうなるか!=
Dell-EMCの合併は反トラストはクリアーした。しかし欧州や中国などはこれからだ。さらにEMCの株主からの訴訟も幾つか起こっている。これらは何とか収まるだろう。難関はやはり資金調達だ。買収発表時と異なりVMwareの株価は大きく下がった。最近の株価を$52.28と仮定すると現在のマーケットキャップは$22.15B、約35%の下落である。こうなると、EMC株主の不満はともかく、調達予定のCredit SuisseやBarclays、Bank of America、Citi、Goldman Sachs、JP Morgan、Deutsche Bankなどの反応は鈍くなる。つまり、これら銀行団にとっては優良企業のVMwareが担保のようなものだからだ。VMware株価の低迷で資金調達の行方が見えにくくなってきた。