2016年1月20日水曜日

M2Mの2社、eSIMのJasperとISM帯のSigFox -IoT(6)

IoTの6回目、今回はM2M(Machine to Machine)の2社を紹介しよう。
M2Mはその言葉通り、人を介さず、マシン同士がネットワーク越しに機能するシステムだ。ここ数年IoT普及のための環境整備が進んだ。とりわけ、携帯電話のモバイルネットワークを利用する-M2M Mobile-取り組みは目覚ましい。Infonetics Reportによると、世界的にはモバイル利用のM2Mは2013年から2018年で約3倍となり、それをけん引しているのがLTEの普及だという。

=eSIMに賭けるJasper!= 
Jasper Technologiesの創業は2012年、ファンディングは最新がSeries D-Ⅱ、総額$215M(約258億円)。彼らが開発しているのはSIM搭載オブジェクトを扱うM2Mプラットフォーム(Jasper IoT Service Platform)だ。このプラットフォームを利用する企業ユーザは2,000社を超え、接続モバイルオペレータも全世界で100社以上となった。背景には通信モジュールの高性能化と低価格化がある。特にeSIM(embedded Subscriber Identify Module)は特筆ものだ。これまでのSIMと異なり、eSIMは産業用の機械や車両などに組み込み、必要に応じてリモートからキャリアの電話番号を書き換えることが出来る。つまり、これを利用すれば、IoTオブジェクト(機械や車両など)は、世界中どこでもSIMの差し替えなしに利用が可能となる。SIMだけでなく、このeSIMの普及とAPIの標準化を目指したM2M World Allianceが2013年末に立ち上がった。メンバーはNTT DoCoMo、Rogers(Canada)、Telefonica(Spein)、KPN(Nederland)、Telenor Connexion (Sweeden)、Telstra(Australia)、Etisalat(UAE:United Arab Emirates)、VimpelCom(Rosia)、SingTel(Singapore)の8社。アライアンスのAPI制定を受け、NTT DoCoMoからは、2014年6月末、Jasper Technologiesのプラットフォームを利用したeSIM向けDoCoMo M2Mが発表されている。


=ISM帯の普及を目指すSigFox!= 
次に紹介するのは同じM2Mのスターアップだが、フランス(Toulouse-米本社:Boston)を拠点とするSigFoxだ。VC投資ランキングでは、Jasperが5位、SigFoxは6位である。そのSigFoxがIoTの本場米国での市場開発のために、昨年2月、資金調達を実施した。集めたお金は何と$115M(138億円)累計総額では$151.3M(182億円)となった。該社が得意とするのはISM bandだ。ISM帯とは産業・科学・医学(Industry/Science/Medical)用に割り当てられた帯域で、電子レンジ(2.4GHz)のように規定出力以下なら免許が不要だ。SigFox製品は915MHzを利用したショートメッセージの低速伝送だが、バッテリー消費が非常に少ない。Forbesによると、SigFoxは昨年10月末、サンフランシスコ市全域にISMネットワーク(市内のビルの上に設置したトランクケース大のトランシーバー20台で構成)を展開した。このネットワークは、パーキングメーターや火災報知器、農業用各種センサー、フィットネストラッカーなどのウェアラブルに適用される。デバイス側にはSigFoxの廉価で小さなチップとファームウェアを搭載する。同社によると、このネットワークは、既にフランスとスペイン全土をカバー、米国では、今回集めた資金を使い、サンフランシスコが最初、その後、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、シカゴ、オースティン、ヒューストン、アトランタ、ダラス、サンノゼの全米10都市に拡大予定だという。日本からはNTT DoCoMo Venturesが昨年2月の米市場開発向け大規模資金集めに参加している。
 


2016年1月14日木曜日

ワイヤレス2社、JawboneとSonos  -IoT(5)

IoTの5回目、昨年のVC投資ランキングの続きだ。
今回は3位と4位、図らずもこの2社はワイヤレスオーディオが得意である。また、個人的には、仕事の関係でこの2社の製品は、IoTなどという言葉が生まれる以前からデモで利用したことがあり、なじみが深い。

=Bluetoothのノイズフィルタリングで成長したJawbone=
Jawbone JAMBOX and ERA
ランキング3位はJawbone、Bluetooth技術が得意だ。同社の設立は1999年、当初の名前はAliph、スタンフォード大学の学生たちが興したスタートアップである。起業してすぐに米軍向けのノイズキャンセリング技術を開発し、2002年にDARPAとの契約に成功した。戦闘員同士のクリアーな通信のための研究である。その後、コンスーマー市場へ方向転換、2007年、CESでスマホと連携使用するJawbone(英語-あごの骨)ブランドのバックグラウンドノイズを抑えたヘッドセットを発表して脚光を浴びた。2008年には改良型を発表、Appleストアでの販売も始まった。Jawboneとは新ヘッドセットが耳に掛けるタイプのBluetoothイヤホーンで、形があごの骨に似ていることからだと聞く。2010年のホリデーシーズンにはBluetoohスピーカーJawbone JAMBOXも発売し、同社の2枚看板商品となった。同時に、同社はこれらJawbone製品と3rdパーティーアプリやデバイスとを組み合わせたりカスタマイズできるソフトウェアプラットフォームも発表。ここまでが第一期である。そしてIoT時代が到来した。
2011年はこれまで製品ブランドだったJawboneを社名と改めることから始まった。
Jawbone UP Seires
すぐに第4世代のヘッドセットJawbone ERAを発表し、11月にはリストバンド型ライフスタイルトラッキングシステムのUPを公開した。UPはリストバンドにモーションテクノロジーを利用して、運動や睡眠、さらに食事情報を記録、Bluetoothでスマホやタブレットと連携してライフスタイルをトラッキングできる。UPは、簡単に言えば高性能万歩計だが、歩数や消費エネルギーの総計表示だけでなく、時系列で見たり、設定をすれば運動不足のアラーム機能もある。睡眠管理はボタンの長押しで始まり、もう一度長押しすれば起床となってリセットされるUPはこの間の全体睡眠時間だけでなく、深い眠りや浅い眠りの時間、さらに時系列で眠りグラフも表示してくれるという丁寧さだ。食事についてはスマホから自分で入力すれば、大まかな栄養管理にも役に立つ。果たして、第二期に入ったJawboneは勝ち残れるだろうか。
フィットネスのウェアラブル分野には競合相手が多い。年初めのCES 2016で最大のライバルと目されるフィットネストラッカーのFitbitからはApple Watch対抗の新製品Fitbit Blazeた。またMisfit WearableからはJawbone UPと同様スリープ管理のついMisfit Ray、MiraからはよりファッショナブルなMira Opalが登場し、JawboneもJawbone UP2を出して対抗する。
Fitbit Blaze(L) & Mira Opal(R)

=ワイヤレスHiFiオーディオの世界を拓くSonos= 
Sonosの歴史も長い。2002年の起業だ。Sonosの得意技はWiFiに独自プロトコルを採用したHiFiオーディオである。Sonosはこの仕組みを内蔵した各種のパワードスピーカーを出荷している。主力製品はPLAY:1,3,5、さらにシアター用のPlayBarやサブウーハーだってある。まさにBoseのワイヤレスネットワーク版だと思えば良い。
使い方は簡単だ。スピーカーは一つでも構わないし、自宅の各部屋に複数あっても良い。それらはAESでの暗号化されたP2PのSonosNetでネットワーク化され、スマホやタブレットで管理できる。ここまで説明するとAppleファンはApple AirPlayを思い出す。しかしAirPlayの接続デバイスはiPhoneかiPadに限られている。Sonosは専用の高品質スピーカーを揃え、最大32台まで接続が可能だ。基本となる音源はローカルの音楽ファイルものだけでなく、オンラインミュージックストリーミングの
PandoraSpotify、世界中のインターネットラジオが聞けるTuneInなど、スマホやタブレットで自由に追加できる。各部屋の音量調整は勿論、違う音楽を流すことだってOKだ。Sonosに見るオーディオ機器のIT化に刺激され、BoseからはSoundLinkBang & OlufsenからもBeosound 35登場してきた。



=これからのポイント!= 
Jawboneがこれまでに集めた資金は$725.8M(約870億円)、何と10ラウンドに及び、買収企業も4社となったBluetoothを使ったノイズフィルタリング、それが同社の起業動機だった。 ここまでは上手く行った。問題はこれからだ。IoT時代にBluetoothノイズフィルタリングのようなはっきりしたアドバンテージが出せるかが問われている。そうでなければ、大勢いるフィットネストラッキングのベンダーに埋没してしまう。一方、Sonosも8ラウンドで$374M(約449億円)の資金を集め、オンラインストリーミングを扱うHiFiオーディオ機器を開発してきた。これを更に拡大し、人々のライフスタイルを先取りする製品開発ができるかどうかだ。共にここ1~2年が勝負の時期となる。

2016年1月6日水曜日

デジタルメディスンのProteus -IoT(4)

前回はIoT分野のVC投資ランキングを取り上げ、第1位になったスマートガラス開発のViewについて紹介した。IoTというと、ウェアラブルのような一般向けのやや軽いものをイメージされる読者も多いと思う。しかし、それだけではない。昨年末に紹介したHP Enterpriseのギャザリングシステムは、分散した工場内の膨大な数の機械情報を収集し、保守時期の決定や故障予防などへの活躍が期待されている。Viewのスマートガラスも量産が進めば、オフィスだけでなく、一般住宅への適用も可能となり、我々を取り巻くエネルギー環境は一変する。今回紹介するのは、VC投資ランキング第2位のProteusだ。同社も医療分野の今日的課題解決に取り組んでいる。


=Proteusの開発したデジタルメディスンとな何か!= 
スタートアップのProteus Digital Healthはデジタルメディスン(Digital Medicine)を開発している。デジタルメディスンとは服薬測定ツールのことだ。米国の統計によると、医師が処方した投薬の50%が服用されず、この傾向は特に治療期間の長い慢性疾患に顕著だという。これはお金の無駄遣いだけでなく、治癒の遅れをもたらす。この状況を改善するのがデジタルメディスンだ。患者は該社の開発した1mm角のICチップを埋め込んだ錠剤を服用し、体に貼ったパッチでICチップの発信情報を収集する。ICチップからは服用薬の種類や量、摂取日時など、パッチ自体からも体温や心拍数などの情報が検出され、患者はそれらをスマホやタブレット上で確認できる。これらの情報はさらにクラウド経由で医療機関へ伝達されて、医師は患者の服薬状況などを知ることができる。もし問題があれば医師から患者にメッセージを送ることも可能だ。 

=大塚製薬との提携=
処方薬の多くが服用されないという問題は、高齢化が進む日本の方が深刻かもしれない。さてProteusは実用化に向け、日本の大塚製薬と提携して共同開発が始まった。プロジェクトはProteusのICチップを長期治療が欠かせない大塚製薬の精神障害治療薬(アリピプラゾール)に組み込んだ錠剤開発だ。プロジェクトは昨年9月、この新錠剤が臨床試験を経て、米食品医薬品局FDAによって承認された。今年から本格的な適用が始まる。 

=集めた資金は440億円超、問題はこれからだ!=
これまでの道程は長かった。同社の前身はProteusBiomedical、創業は2001年だった。これまでに調達した資金総額は$367.2M(約440億円)。最初のSeries-Aの面倒を見てくれたのはスペイン系ポータル運営企業のTerra Lycos、Series-B以降はAsset Management Venturesに何度となく助けてもらい、直近のSeries-Fでは香港のYuan Capitalが$172M(206億円)の資金を用意してくれた。

しかし、問題はこれからである。 デジタルメディスンの普及で未服用薬を大幅に減らすには、大きなシステム改良が不可欠だ。現状は精神障害治療に限定されている。何故なら、錠剤が高価で治療期間が長く、医師が投薬効果を厳密にモニターしなければ改善が難しい病気だからである。今後、錠剤内のICチップの価格が限りなく下がり、パッチの抜本的な改良が出来れば普及に弾みがつく。上手く行けば、経済効果だけでなく、治療効果の向上など世界的規模の改善ができる。